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「AIで開発費3割削減、期間半分」の前に聞きたいこと

こんにちは、常務の村上です。

今日はちょっと真面目な話です。

若い子に「長い」と言われたので、このポストの要約です・・・(頑張って書いたので全文も読んで・・・)

  • 「AIで開発費3割削減・期間半分」という営業メールが増えた
  • AIでシステムを「作る」のは簡単になった。でも「動く」と「業務で使える」は別物
  • SIerの商品はプログラムではなく、「業務で使えると責任を持って判断するプロセス」
  • AIを使っても総額は劇的には下がらない。開発工数はコードを書く時間だけではないから
  • モックアップが速く作れることと、本番システムを高品質に作れることは別の能力
  • 誰でも作れる時代の本当の怖さは、保守できない「野良システム」の量産
  • ベンダー選びは「その品質は誰が保証してくれるのか」まで聞いてから

この半年間でAIは目まぐるしく進化しました。その進化に追従してか、最近増えてきた「問題?」について、今日は書いてみようと思います。

こんな営業メールが増えたのです。(当社がシステム会社であることを認識してないで送ってきている、数うちゃ当たるみたいなやつなので、ごみ箱直行ですが)

「AI駆動開発で開発費を約3割削減」
「開発期間を約半分に短縮」
「1〜2営業日で動くモックアップを作成」

生成AIが急速に普及した現在、こうした話そのものは、別に荒唐無稽ではありません。

むしろエンジニアであれば分かると思いますが、LLMに少し慣れた人なら、画面のモックアップ程度は驚くほど短時間で作れるようになりました。

要件を文章で渡せば画面を作り、APIを書き、SQLを書き、テストコードまで生成してくれる。数年前なら数日かけていたものが数時間でできることすらあります。

すごい時代になりました。

ただ、SIerとしてこういう営業文句を見ると、どうしても別のことを考えてしまいます。

「それ、会社のシステムとして本当に動かして大丈夫なんですか?」

という話です。

「動く」と「業務で使える」は、まったく違う

生成AIでシステムを作ってみると分かります。動くものを作ること自体は、ものすごく簡単になりました。

ログイン画面を作る。一覧画面を作る。CSVを読み込む。データベースに登録する。帳票をPDFで出す。

この程度なら、専門家でなくてもLLMとの対話を繰り返していけば、それなりのものが出来上がります。だからこそ、今後は「プログラムを書けること」そのものの価値は確実に下がっていくでしょう。

しかし、業務システムにはその先があります。例えば、

  • 同時に100人がアクセスしたらどうなるのか
  • 処理途中で通信が切れたらデータはどうなるのか
  • 二重登録は発生しないのか
  • 操作履歴は残っているのか
  • 権限の違う利用者から見えてはいけない情報が見えないか
  • バックアップから本当に復旧できるのか
  • OSやライブラリに脆弱性が発見されたら誰が対応するのか
  • 3年後に担当者が変わっても改修できるのか
  • 法改正や業務変更に追従できるのか
  • 障害が起きたとき誰が原因を調べるのか
  • そもそも「正常に動いている」と誰が判断したのか

という問題があります。

生成AIはコードを書いてくれます。でも、「このシステムを会社の業務に使ってよい」という判子までは押してくれません。ここが非常に重要です。

システム開発会社の商品は「プログラム」ではない

我々のようなSIerが提供しているものを「プログラム」だと思われることがあります。もちろんプログラムも納品します。しかし、本質的な商品はそこではありません。

私はむしろ、「このシステムなら業務で使える、と責任を持って判断するプロセス」こそがシステム開発会社の商品だと思っています。

要件定義をする。設計する。レビューする。テストする。異常系を確認する。性能を確認する。セキュリティを確認する。移行方法を考える。バックアップを設計する。監視する。障害対応方法を決める。ドキュメントを残す。

そして、何かあったときには問い合わせを受け、調査し、必要なら修正する。

非常に地味です。しかも、この辺は生成AIを使ってもゼロにはなりません。

むしろAIが大量にコードを生成できるようになったからこそ、「誰がそれを確認するのか」という工程の重要性は以前より高くなったとも言えます。

AIを使っても、開発費はそんなに劇的には下がらない

当社でも当然、システム開発に生成AIを使っています。設計の補助、コード生成、レビュー、テストコード作成、調査、ドキュメント作成など、かなり使える場面があります。生産性が上がっている実感もあります。

ただし、それによってプロジェクト総額がいきなり半額になるかというと、少なくとも当社ではそこまで単純な話にはなっていません。

理由は簡単です。業務システム開発の工数は、「キーボードを叩いてプログラムを書く時間」だけではないからです。

顧客との打ち合わせもあります。業務を理解する時間もあります。要件を整理する時間もあります。レビューもあります。テストもあります。データ移行もあります。利用者への説明もあります。本番稼働後の対応もあります。

AIによって圧縮できる領域は確実にあります。しかし、品質を維持しようとすると、削ってはいけない工程もあります。

だから、「AIを使ったから30%安くなりました」という話を聞いたとき、私ならまず、「何の工数が30%減ったんですか?」と聞きます。ここが説明できるかどうかは非常に重要です。

「1〜2日でモックができます」は、実はあまり驚かなくなった

同様に、「正式見積り前に1〜2営業日で動くモックアップを提示できます」という話も、2026年現在ではそれほど特殊な能力ではなくなりつつあります。生成AIと開発環境を組み合わせれば、かなりの速度で作れます。

もちろん、早い段階で画面を見せて認識を合わせること自体はとても良い方法です。当社でも、仕様書を何十ページ読むより、実際の画面を見てもらった方が圧倒的に話が早い場面はたくさんあります。

ただし、モックアップを早く作れることと、本番システムを高品質に作れることは別の能力です。ここを混同してはいけません。

家に例えるなら、CGで完成予想図を一日で作れることと、地盤を調査して、構造計算をして、雨漏りせず、地震にも耐え、30年間住める家を建てることは別の話です。完成予想図を作る技術が100倍速くなっても、建築会社の仕事が100分の1になるわけではありません。

ソフトウェアも同じです。

怖いのは「野良システム」が簡単に作れる時代になったこと

むしろ私が生成AI時代に少し怖いと思っているのはこちらです。

以前なら技術的なハードルによって淘汰されていたシステムが、簡単に世の中へ出せるようになりました。

一見すると普通に動く。画面もきれい。デモもできる。

しかし、設計思想が分からない。テストの記録がない。仕様書がない。作った本人しか分からない。利用しているライブラリも把握されていない。脆弱性対応のルールもない。障害時の連絡先も曖昧。担当者が辞めたら誰も触れない。

そんな「野良システム」です。

個人用の便利ツールなら、それでも構わないでしょう。壊れたら作り直せばいい。

しかし、受発注、会計、在庫、顧客管理、生産管理、医療、行政など、会社や社会の業務を支えるシステムまで同じ感覚で作ってよいとは思いません。

ベンダーを選ぶなら、「AIを使っているか」より後ろを見る

AIを使っているか。モックアップを何日で作れるか。開発費が何%安いか。もちろん、それらも評価項目の一つです。

しかし、会社の基幹業務を任せるなら、もう少し後ろまで見た方がよいと思います。例えば、

「品質基準はどう決めていますか」
「誰がコードレビューしていますか」
「AIが生成したコードはどう検証していますか」
「テストの証跡は残りますか」
「非機能要件はどう決めますか」
「脆弱性が見つかった場合の対応は」
「ソースコードと設計資料はどう管理しますか」
「担当者が退職した場合でも保守できますか」
「障害発生時の責任分界は」
「5年後もこのシステムを保守してもらえますか」

こういう質問をしてみる。

ここで具体的な回答が返ってくる会社と、「AIで高速開発できます!」という話に戻ってしまう会社では、かなり意味が違います。

ちなみに今回きっかけになった営業メールの会社について調べてみると、公式サイトにはCI/CD、コードレビュー、脆弱性確認、Human-in-the-Loop、トレーサビリティ、非機能要件、保守運用などについてかなり詳細な品質管理方針が掲載されていました。

つまり皮肉なことに、営業メールだけ読むより、会社の背景まで調べた方がずっとまともな会社に見える。これはこれで、なかなか面白い話です。

だからこそ、「AI」「高速」「低価格」という営業コピーだけで発注先を決めるべきではないと思うのです。

AI時代だからこそ、SIerの価値は品質保証に戻ってくる

生成AIによって、システムを「作る」コストはこれからさらに下がるでしょう。これは間違いないと思います。

だからこそSIerも、「うちはプログラムを書けます」だけでは存在価値がなくなっていきます。

その代わり、業務を理解すること。適切な技術を選ぶこと。品質を確認すること。問題が起きたときに原因を追えること。長期間保守できる状態を作ること。

そして何より、「我々が責任を持ってこのシステムを提供します」と言えること。

ここに価値が移っていくはずです。

AI駆動開発。高速開発。ローコード。ノーコード。これからも新しい言葉は次々出てくるでしょう。技術そのものは積極的に使えばいい。当社も使います。便利なものをわざわざ使わない理由はありません。

ただし、「速く作れるようになった」ことと、「安心して使えるものを作れる」ことは別です。

安くて速いことを否定する必要はありません。本当に安くて速くて品質も高いなら、それが一番いい。

でも、安さの理由が「AIを使ったから」だけだったら、少しだけ踏み込んで聞いてみてください。

「で、その品質は誰が保証してくれるんですか?」

システム会社を選ぶときには、その答えまで聞いてからでも遅くありません。

安かろう悪かろうの「野良システム」で十分な用途もあります。でも、会社の仕事を載せるなら。

せめて、それが野良なのか飼い犬なのかくらいは確認してから導入したいものです。

ちなみに当社の飼い犬はこちら。血統書(保守契約)付きで、健やかな空気の番犬として今日も静かに稼働しております。

以上、常務の現場レポートでした。